オンラインレッスンのフリートークの教材トピックに热搜を活用する
中国語学習者なら“热搜(榜)”(rè sōu bǎng 人気検索ワードランキング、検索急上昇ランキング)という言葉をご存じの方も多い事でしょう。
“热搜”は中国の検索エンジン百度で、キーワード入力ページの入力フォーム下に「百度热搜」という太字のリンクと、その下に表示されている、1~5位までの注目トピックとリアルタイムで今現在注目されているトピックなどの事を指しますね。
热搜の情報のみのホームのページもあり、小説や映画、車やゲームなどのカテゴリごとのランキングも表示されています。
上記のページ上部メニューの首页の文字の隣の「热搜」のリンク先のページでは9位よりも下位の検索急上昇ランキングを見ることができます。
この热搜のトピックはオンラインレッスンの教材としても活用価値があります。
オンライン英会話レッスンなどだと“Daily News”などのようにニュース素材を集めた教材があり、その内容についてディスカッションをすることがよくありますが、中国語オンラインレッスンでも同じようにニューストピックを活用しよう、ということなのです。
私個人は現在月曜から金曜まで毎日【CCレッスン】 で中国語のオンラインレッスンを受けています。
基本は市販テキストを使ってレッスンを進めていますが、レッスンの始めに2、3分の世間話をするようにしたり、また毎週1回ほどは完全フリートークをする日も設けています。
フリートークと言っても何をトピックに選べばよいのか迷う学習者も多いと思われます。
そんな方にお勧めなのが、この热搜のトピックなのです。
(ただし、热搜に挙がってくるニュースは大体が「ヤバい」内容のものが多く、すなわちピックアップするトピックはネガティブな出来事が大半を占めてしまうのですけれど(笑))
热搜の中から一つ自分が興味があったり、もっと知りたい、深堀りしたいというトピックを選び、事前にひととおり用語や、その出来事の背景、それに絡む中国の習慣などを予習してレッスンに臨みます。
热搜のトピックなら中国国内からアクセス制限は当然ありませんので、講師にURLを送れば講師も確実にそのWebページを見ることができますので簡単にトピックを共有することができます。
レッスン中はピックアップしたトピックに対してなぜこのようなことが起こっているのかとか単純に聞いてみたり、日本では考えられないようなことが起こっていれば、それは日本と中国とのどのような習慣上あるいは考え方の違いなのか、など深堀りしていくことで日中間の相違点の理解も深まります。
また热搜で取りあげられる内容は大体が動画付きのトピックが多いので、本場の中国人の口語を学べることも多いです。
動画だけだとリスニングに自信がないという方は動画の下にテキスト文もあるタイプを選ぶと良いでしょう。
そういった類の言い回しにはスラングも多く含まれていて、ネット検索ではなかなか意味を調べられないものも多いです。
そういった語句こそオンラインレッスンで中国人に聞くことで意味をとらえられるようになります。
これを繰り返していくことで流行りのワードや、参考書や一般のニュースではなかなかお目にかかれないような言い回しも身に付いていきます。
本記事では最近の中国の热搜で取り上げられていた「とんでもニュース」の一つを取りあげていこうと思います。
2024年6月、上海のマナーコーヒーで相次いで起きた店員と客のバトル
2024年6月中旬に中国のコーヒーチェーン店2軒のそれぞれの店で起こったあり得ないような出来事の動画が热搜榜に挙がっていました。
そのコーヒーチェーン店の名前は「Manner Coffee」。
じつは5月にもManner Coffeeで客と店員の争いの動画が少し拡散してはいました。
6月の2本の動画も客と店員とのトラブルに関する動画だったのですが、なんと同日に、しかもどちらも上海で起こっており、「Manner Coffee」という店名からはかけ離れた“不礼貌”な行動がこの騒動の皮肉さを際立たせていたのもこの話題の拡散に拍車をかけました。
以下はこの件に関する記事です。ニュースの中国語が読める方は一読すると背景がよくわかりますよ。
后续!Manner辞退泼咖啡粉员工:人社局回应,违反制度,无需赔偿
では件の動画のナレーション部分や、実際のやり取りの一部を抜粋して何が起こっていたのか見ていきます。
bilibiliの動画ページは以下になります
全网疯传“上海咖啡店发疯30秒”背后真相,暴露年轻人的悲哀困境
まずは一件目のやり取りについて。
主な登場人物は
店員A:問題の店員(画面左側の髪の長い方)
店員B:ショートカットの店員
顧客:おばさん
冒頭ナレーション
这几天热搜上同时挂着两个咖啡店员工与顾客起冲突的发疯视视频,巧的是这是在同一天内,同一个咖啡品牌,同样的地点,上海的两家不同门店发生的。
(ここ数日、コーヒーショップの従業員と客が衝突するクレイジーな動画が2本、人気検索ワードに挙がっていた。)
来看第一个,一位中年女士来Manner咖啡店点单,让店员先做她的单。
(1つ目の動画では、中年の女性がマナー・コーヒーに来店し注文し、店員に自分の注文分を先に作るよう頼んだ。)
等了一会儿之后又催促其中一名短发店员。
(少し経って再度ショートカットの店員の方に催促した。)
顧客:我快迟到了!(遅れちゃうわよ!)
店員A:我帮您退单吧。(キャンセルしましょか?)
顧客:你这个人我刚就想说你。你说话老是冲人干什么呢。(こいつ...ちょうどこいつに言おうと思ってたんだよ。お前は常に人に突っかかってきてなんなんだ(何してんだ))
店員B:阿姨我真的马上就好了,就放在这里。(おばさん、もうすぐ出来上がりますので、ちょうどここに置いてあるカップがおばさんの注文したやつです。)
顧客:对呀,我知道的呀,我刚才就忍了,你不想干就不要干了,什么帮我退单了。(そうだよね、知ってるよ。さっき我慢してたけど、お前仕事したくないならするなよ、何がキャンセルしましょか、だよ)
店員A:你不想买你可以不要买呀。(注文したくないなら注文しなくてもいいんだよっ)
顧客:我就买怎么了。你这种人对顾客是这样讲话的吗?别人随便谁跟她讲个话都是这样。你吵什么早饭没吃啊。(私はただ注文しただけで何が悪いってんだい?お前ってやつは客に対してこんな口のきき方するのか?この女は他人と話する時ずっとこんな風に気の向くままにしゃべって。何をやかましくしてんだい、朝メシ食ってねーのか!)
店員A:我是没吃早饭呀!你投诉呀!(食ってねーよ!クレームつけてみなさいよ!(クレーム結構という感じか)。字幕では“啊”となっていますが“呀”のようです。他の動画では“呀”となってました。)
顧客:我肯定要投诉你的。(絶対クレーム入れるからな!)
店員A:你就投诉呀!(クレームいれてみろや!)
からの
↓
コーヒー粉を顧客の顔面にぶちまけ
店員B:你干嘛呀…。(あんた何やってんの…)
ナレーション
顾客后来一边清理自己的脸和衣服,一边要求店员道歉,店员不肯,发疯般的往自己头上倒咖啡粉。
(顧客のおばさんはその後顔と服をきれいにして、件の店員に謝罪を求めつつも店員は謝罪せず、狂ったように自分の頭にコーヒー粉をぶっかけた。)
店員A:公平不公平?! 我问你公平不公平!(おあいこだろ!聞いてんだよ、おあいこだろって!)
(後で紹介する別の完全版動画ではこのセリフの前に顧客が“那我也把咖啡粉弄在你脸上”(じゃ私もコーヒー粉をお前の顔にぶっかけてやる)とのやり取りがありました。それでこの店員は自ら自分にコーヒー粉をぶちまけたのでしょう)
顧客金的蹴りからの店員反撃ビンタからの滅多打ちバトル
ナレーション
第二个监控视频是在同一家咖啡品牌的不同门店。
(2つ目の監視カメラ映像は、同じコーヒーチェーン店の別の店のものです。)
顧客:我下单的时候你也没告诉我你那么长时间啊,我告诉你我赶飞机去的,你说7、8分钟我等了也就算啦。(注文したときこんなに時間がかかるなんて言ってなかった、私は飛行機の時間があるので急いでいて、7、8分と言われたからそれならいいかと思ったのよ)
店員:那您现在要退单吗?(じゃあ今キャンセルしますか?)
(沉默…)
顧客:你是不给我做了是吗?(今淹れているのは私のコーヒーよね?)
店員:给您做,但是等手冲做完,手冲做完是您的,我们是按顺序出餐的。我在做手冲,您稍等一下。(そうですあなたのを淹れています。でもハンドドリップが終わるまで待ってください、ハンドドリップが終わればあなたのです。私どもは順番に作っています。今ハンドドリップ中ですのでもう少々お待ちください。)
ナレーション
顾客此时突然问起了店员的名字,店员没有正面回复,只说自己在做手冲,两人此时的情绪都像紧绷的弦一样达到了临界点,顾客这个时候掏出了手机。(この時客は突然「あなたの名前は何て言うんだ?」と店員に問い始め、店員はまともに回答せず、「今ハンドドリップ中です」と言うばかりだった。この時から二人の感情は、張り詰めた糸のように臨界点に達し、客はスマートフォンを取り出した)
店員:您要做吗?(コーヒー作りますか)
顧客:我不要做了。(いらない)
店員:那好我给您退餐不好意思,然您久等了实在抱歉。(分かりました、キャンセルいたします、申し訳ございません、お待たせしてしまい本当に申し訳ございません。)
ナレーション
顾客却拿起手机对着店员的脸拍摄了起来,店员一把抢过手机,两人开始了激烈的争吵。(客はそれでもスマホを持ち出し店員の顔に向けて撮影し始め、店員は携帯電話を奪い取り、2人は激しい口論を始めた。)
顧客:下单的时候…(注文したとき…)
店員:你下单的时候我跟你说了前面有4杯,我说了吗?(あんたが注文したとき4杯の注文の処理待ちって言ったよな!?)
顧客:说了啊7、8分钟(言ってたよ、7,8分くらいだって)
店員:我提醒你了吗?(予め伝えておいたよな?)
顧客:说了啊但现在是8分钟吗(言ったよ、でも今8分経ってるじゃない?)
それからこの「8分間」という時間についての言い争いがあった。
店員は「10分経ったといっても8分ほどってことには変わりないでしょう」と。
客の方の主張は「現時点でもう15分も待っている」。
その後店員は「あなたに人を撮る権利なんてあるのか?」という主張を始め、ここから双方とも警察に連絡すると言い出す。
この後の字幕では”省略一些店员情绪激动开始辱骂的部分“とあり、一部罵詈雑言の部分を省略しています。(辱骂rǔ mà:口汚くののしる.辱めののしる.)
他の動画で確認できますが、省略された部分ではこの後の一部分で店員が酷く汚い言葉を使って女性を罵っています。
結局店員はカウンターをくぐって店の外に出てスマホを奪おうとする。客の女性が店員の股間を蹴ったことで店員はさらに逆上し顧客にビンタをお見舞いし、そこから数発殴るという騒動に発展しました。
「股間を蹴る」は”一脚踹在了店员的裆部“。
ここで、動画をよく見るとわかるのですが、この女性客は足の裏で蹴っていました。だから同じ蹴るでも“踹”(chuài 足の裏で蹴る、踏む、踏みつける)を使っているんですね。
つま先や足の甲で蹴るだと”踢“を使います。サッカーボールを蹴る、は”踢足球“ですね。中国語テキストの一番最初の方に出ている動詞です。
二つの出来事の完全版動画は以下になります。
こちらの動画では先に紹介した動画で省略した部分も流れています。(字幕には繁体字が使われています)
男性店員が
“我有我的公民肖像权,你拍什么拍!”(俺には肖像権がある!何撮ってんだ!)
と発するあたりから声のボリュームが大きくなってきています。
その後二人の間の言い争いはヒートアップし、店員はさらに
“急着投胎呢,我跟你说要等十分钟,你要等吗?你不能你给我滚。”(せっかちなんだよ!10分待てって言っただろ、待つのか? 待てないならあっち行け! “投胎”は生まれ変わるという意味で“急着投胎”は「生まれ変わりを急ぐ」という直訳ですが、焦ったり急いでることを批判する時に使う表現)
それからさらに店員は
“寡妇,老女人没有男人要”(未亡人!男に必要とされない老女!)
などと放ちます。どうやらこれも中国の独特の悪口のようです。
日本の古典的な悪口で「お前の母ちゃんでべそ」がありますが、これ海外の人にはなにが悪口なのか通じないのと同様なものでしょう。
英語で「お前の母ちゃんでべそ」を訳す時son of a bitchとか、motherfuckerにすることが多いようですが、直訳すると全然意味が違いますし。
それから女性客もいろいろ言い返します
“来,你有种你再说一遍。有种吗?你敢拉我。”(根性があるなら、もう一度言ってみろ。 度胸があるのか? 私をひっぱってみろ)
(ここで出てくる”有种“も知らないと意味が分からなくなりますね。別の中国語で言い換えると、有志气,有骨气,有本事。
気概がある、気骨がある、などという意味です。)
そしてしまいには
“你有本事你有种你过来。”(根性があるなら、来てみろ!)
なんて言ってしまったものだから頭に血が上っている店員はカウンターをくぐり女性の方に向かい、女性による金的蹴りからのバトルとなってしまったわけです。
マナーコーヒー騒動が起こった背景
この騒動が話題になっていた時、割と店員の肩を持つ意見も多かったのです。
その理由はマナーコーヒー従業員の過酷な労働条件にあったようです。
最初に挙げた動画の後半でもその分析があり、ナレーションでは”因为这两起事件背后所暴露出的是一种远比个人情绪,品性之类的问题更悲哀的困境。“(なぜなら、この2つの事件の背後で明らかにされたのは、個人的な感情や性格の問題などよりも、はるかに悲しい苦境だからだ。)で始まり、具体的な労働環境、条件について紹介しています。
一つ目は、MannerCoffeeの店員は毎回トイレに行くたびにタイマーのボタンを押して時間を測らなくてはならないこと。トイレに使える合計時間は10分以内。
二つ目は一日の売り上げが5000元に満たない店ではスタッフの配置は一人のみ。つまりワンオペというやつです。
ワンオペの店を見た人たちからは、「注文してから25分経ってやって自分のコーヒーが出てきた」とか「若い女の子が休むことなくひたすらコーヒーを作っていてかわいそうで注文できなかった」の書き込みがありました。
この条件を満たす場合、どうやら8時間に500杯のコーヒーを作らなければならないようなのです。しかもハンドドリップで。
遅刻や私用による休暇で皆勤手当1000元が引かれる。
他にはクレームを3回入れられると解雇など。
このような過酷な条件下ですから、店員のストレスは相当のもので、それゆえ今回のような騒動が相次いで起こったのだ、という見方も多いようです。
日本での取りあげられ方
これだけとんでもない出来事で、中国でかなりバズったので日本のメディアも取りあげていました。
中国語のニュース記事や音声を読むにはまだちょっと中国語レベルが追い付いていないという方は日本で取り上げられたニュースを見て、概要を掴んでからトークトピックとして選ぶのもよいでしょう。
以下の記事は動画付きの記事なので短時間で概要を掴めます。
【物議】“カスハラ”客に店員がコーヒー粉ぶっかけ!無断撮影の女性客に「バカ野郎!」平手打ちも 中国|FNNプライムオンライン
今回のMannerCoffeeのケースでは編集とナレーションでことさら「カスハラ」を強調しているようにも思えます。
カスハラは良くないですが、もっと良くないのは暴力行為じゃないんでしょうか?
日本でこれやったらカスハラよりも店員の行為の批判を強調して報じることでしょう。
メディアとしてはここ最近「カスハラ」というワードが賑わっているので、こういった印象操作をした方がアクセスが稼ぎやすかったんじゃないでしょうか。
それでもおいしい(らしい)MannerCoffee
このトピックについて話した中国人講師によると、MannerCoffeeは値段の割にとてもおいしいんだそうです。
その講師の感覚的にはセブンイレブンなどのコンビニコーヒー並みかそれ以下の値段でそれ以上のおいしさのコーヒーが飲めるんだとか。
新興コーヒーブランド「Manner Coffee」、1店舗あたりの評価額がスターバックスの3倍 その秘密は(上) | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア
上記の記事にあるように店舗の簡素化など徹底的なコストダウンでハンドドリップで提供しているとは思えない価格を実現しているわけですが、そのしわ寄せが従業員に来てしまっています。
果たしてMannerCoffeeは持続可能なのかどうか・・・。